●閉店一時間前
主任がマジックペンを投げる。
「たのむぜ!」
「はい!まかせてください。」
ペンをキャッチして、売り場に向かう。
「いらっしゃいませー。いらっしゃいませー。」
声を出しながら、売り場の状態をチェック。
『このあたりは、大丈夫だな。後でまた見てみよう。』
『ここは、30分後に値引きシールを貼ればいいかな。』
朝には ずらっと魚が並んでいたが、売れ筋はとっくに売り切れている。
定番の商品も、予想の範囲内で、残っている。
生魚は、基本的に売り切らないといけない。
そこで活躍するのが値引きシールとマジックペンだ。
残りが少なければ、シールを貼る。
金額の2割程度のシールをポケットから出して貼っていく。
利益は少なくなるけど、売れ残るよりは、まだましだ。
そこそこ残っていると、原価ぎりぎりの値段を勢いよく描いていく。
既に利益が確保されている場合は、一気に半額にしたりする。
値段を書いて棚に戻すやいなや、手が伸びてきてお買い物カゴに
入っていく。
「はーい。お買い得。おかいどくー。」声を休める事もない。
『...これはヤバイ、予想外に売れ残っているなー。』
ポケットから電卓を出して キーを叩く。
『これ原価ぎりじゃん。一気にマジックいけないなー。
でも生ものだから、売り切らないといけないし、、、』
案内カウンターのお姉さんに手を振って、サインを送る。
すぐに放送が流れる。
「♪♪業務放送、業務放送、生鮮担当 売り場にお願いします。♪」
主任がお客の間をぬって、早足でやってきた。売り場に目を配る。
「これか。」
私は 売値を電卓に入れて 手渡した。
「少し(原価)われますけど、これ位いかないと 残りますよね。」
「いや、こうだな。」主任が大胆な金額を見せる。
「..わかりました。太っ腹ですねぇ。」
「他も全部、売り切れよ!」主任の渇が飛ぶ。
「まかせて!」と、マジックペンを取り出す。
「さぁー。今だけ。いまだけだよー。」声を張り上げながら、
さっさ、さっさと値段を描いていく。
次から次へとすごい勢いで商品が 買い物カゴヘと消えていく。
実に気持ちいい。
「はーい。いらしゃいませー!!」
●最後の勢い
若い頃、生鮮の販売をしていた時の話です。
最初に主任に聞かれた事がある。
「商品を売るのに大事な事は何だと思う?」
「品質と、、価格ですよね。」と言うと。
「それもそうだが、もっと大事なことがある。
お前さぁ、きれいな店と、汚れたと、どっちで飯食う?」
「清潔ってことですかね?」
「それはあたり前。要するに、ここで買いたいと思わせる事だ。」
「はあ。」その場ではよくわからなかった。
「とにかく、ここでは魚を売っている。お前、魚はどういう店から買う?」
「新鮮なところですね。」
「どうしたら、新鮮ってわかるんだ?」
「新鮮な雰囲気。。。」答えに詰まる。
「勢いだよ。活きのいいものは勢いよく売れるんだ。勢いを見せるんだ。」
『いきおいですか。』
「まずは、売り場にいるときには、声をだせ。わかったな!」
「はい。頑張ります。」
かつて、私はいろいろな物を売る経験をしました。
どんな商品を売るにしても、売れる流れを作る事は大事です。
そこそこ頑張れば、お客様が商品を見るまでの流れは 作れます。
お客様が商品を手にとって見れるのは、何よりのことです。
そして何より大事なのは、
お客様が最終的な判断をするときに、『ここで買いたい』と思わせる工夫が
あるかないかで 売上が大きく変わってくると言うことです。
同じものは、ちょっとでも 鮮度のよいもの、あるいは お得感のある所から
買いますよね。