●倉庫に入れない

「おい。いそいで来てくれ。」
検品のおじさんが声をかける。

小走りに納品口に向かう。
「にいちゃん。やっちまったな。」
『なにが起きたんだ?』

ちょうどトラックから荷物が おろされている所だった。
『なんだ、いつもと同じ光景... じゃない!』

いつも定量で入荷する商品が、すべて倍の数で積まれている。
体が硬直する。サァッと 血の気が引いていく。

『ということは..』 ガクガク震える足で 店舗脇の冷蔵倉庫へ走る。
ここには、未明のうちに到着した牛乳が 搬入されているからだ。

鍵を開けて中に、、はいれない。
なんと、パック牛乳のケースが 入り口まで積み上げられているではないか。

二重発注だ。。。


当時の発注システムはとてもシンプルな造りだった。
集配センターにモデムでつなぎ、最初に店舗番号を入れる。
後は、商品番号と数量を交互に入れていくだけ。

例えば 数量2を、間違えて[3]と押したら、3個で注文確定してしまう。
すぐに同じ商品番号を入れて、[1][−]と入れないといけない。
(3個の発注と、1個の返品という扱いになる)

放っておくと、伝票もそのまま発行されてしまうので、集配センターに電話を
入れ、「返品ではなく、注文数訂正です」と言っておかないと いけない。


その前日、いつもより早めに注文を出していた。
都合があって、早めに外出しないと いけなかったからだ。

猛ダッシュで入力を済ませると、伝票の束の上に、大きく[済み]と書いた紙を
乗せて店を後にしていた。(本来、ここで店長に一声かけておくべきでした)

どうやらその後、いつもの時に私が事務室にいないのを見て、店長が発注処理
を指示したらしい。


「申し訳ありません。」状況を店長に説明する。そして歯を食いしばる。

「二度と連絡をおろそかにするな。」怒りに声が震えているのがわかる。
「はい。すみませんでした。」

「説教している暇はない。俺は商店街に掛け合うから、ニッパンをさばけ!」
(ニッパン[日販]=牛乳や卵など、基本的に当日中に売り切るべき商品)

「わかりました。」すぐに広報室に走り、POPとチラシの手配をした。

急遽、一日限りの大特売となった。
POPを張り出し、チラシを配り、ひたすら商品を売り場に補充する。

「本日限り!!本日限りのおかいどくー!いらっしゃいませー!」
ずっと声を張り上げていたので、翌日はのどが痛くて喋れなくなってしまった。


●一瞬の決断

『こうしておけば、注文済みとわかるだろう』
翌日、事務所の隅の床に、[済み]と書いた紙が見つかりました。

個人の判断で連絡をおろそかにしていけない事を 思い知らされた事件です。


それにもまして印象に残っているのは、報告を聞いた店長の 一瞬の決断です。
『何があろうとも赤字を出さない』そんな気迫が伝わってきました。

困った、どうしよう等と考えてる間にどんどん時間が過ぎていってしまいます。

日頃から 客観的な状況把握と、目的に向けた判断を、すぐ出来る様に心がけて
おきましょう。
そうすれば、どんな事態になっても 恐れることはありません。

普段から、何事も(高価な買い物を別にして^^)即決する様にしましょう。

判断すべき事を 頭から無くしておくと、やるべき事に専念できます。

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